繋ぎ飼われたその果てに-10

「まさか触るだけで終わっちゃうとは思わなかった。のどかやっぱ素質あるよ」
 一夜が明けてまた一夜。両手でオイルを暖めながら湯尾君がタオル一枚で横たわる私を見下ろす。
「……ごめん」
 恥ずかしくて視線を宙に向ける。だって、タオルを上に被せているだけなんだ。半端無く心もとない。これはもちろん、湯尾君の指示。
「いやいや、褒めてるんだけど」
 するっと足先が濡れる。始まった。血管の一本一本が膨張し、脈が早まる。丹念に足の指を愛でる手は次第にふくらはぎから太ももへ、太ももから掌へ、掌から首元へ上っていった。そして脇からタオルの下に手は侵入し、軽く身体の側面を揉む。
「タオル剥いでいい?」
「え」
「いい加減次に進みたい」
 わたしの胸元に当っているタオルの端を湯尾君がつかんだ。バクッと心臓が跳ねる。
「まっ待って」
「もう待てないよ」
「せめて、電気……」
 消してほしいと目で訴えると、やれやれといった様子で何度か湯尾君は頷いた。
「分かった」
 彼が立ち上がって少しして室内が真っ暗になる。
「これでいい?」
「ありがとう」
 影が左側で止まった。
「じゃ、とるよ」
 その声と共に最後の頼りが剥がされた。肌が空気に晒されて些かひやりとする。そこにぬくい手のひらが蓋をするように覆った。
「あっ」
 思わず声が出る。外側からじわじわと内側に手のひらは動いた。そしてそれぞれの中心に行き着き、玩ぶ。昨日よりも意識的に責められ、だらしなく口が開いた。これ以上はもう無理、というところで動きは止まった。かのように思えた。
「んんっ」
 手のひらより熱く柔らかいものが滑る。思い切り吸われて上に引っ張られる。上下を唇だけで噛まれぎゅっぎゅと左右に捻られる。一段と強い刺激は全身を駆け巡り、ふいうちで身体の一番敏感なところを触られ、頭が真っ白になった。声が止まらない。一番上まで登りつめたあと、くたり、糸が切れたように四肢が緩む。耳に自分の呼吸する音だけが響く中、かろうじて聞けたのは、滑りは良さそうだけど一応、という湯尾君の淡々とした声。それからすぐに濡れた指がぬるりと体内に入ってきた。最初は広げるように入り口をなぞり、上を重点的に指圧しながら少しずつ少しずつ中に分け入ってくる。痛くはない。ただ、指の動きに合わせて自身が形を変えていくのが恥ずかしかった。どんどんどんどん奥の方へ導いているみたいで。そのせいか指が奥に潜む口に辿り着くのに、そう時間は掛からなかった。
「だいぶ下りてきてるね。てか、天井やばくない?」
 くりゅくりゅと「の」の字を書くように指の腹で撫でられ、ピンと足の裏が引きつるようだった。口と壁の間を押されたときはまた頭が白くなりかけた。短距離走をしたあとみたいに息が荒くなる。
「もう一回良くなった方がいいかな」
 中にある指に力が加わり、お腹の裏側を何度も何度も撫でると同時に敏感なところも濡れた指で擦られる。待って、待ってと口走っても、だーめと湯尾君は宥めることしかしなかった。
「は、あんっ」
 背中が仰け反る。太ももの下へ雫が垂れていくのを感じた。身体の輪郭を意識できないほどにぼうとする。再び脳内が真っ白になったあと、少し間があった。休ませてくれているのか、と安心していたら、それは勘違いだった。さらさらした布の音、ビリっと破く音、そして小さな水の音がした。最後のは自分の身体から出た音だ。
「のどか、入れるよ」
「……っ」
 その後のことはなんとなくしか覚えていない。けれど湯尾君の体温と形と匂いだけは深いところまで染みこんだ。

◆ ◆ ◆

 違和感に目が覚める。湯尾君が私を見下ろしていた。一糸纏わぬ姿で。
「えっ」
「あ、起きちゃったか。おはよ」
 うっすらと窓から光が差し込んでいた。自分がどうなっているのか嫌でも見せつけられる。戸惑っている間にゆっくりと体内の口を揺さぶられ、息が詰まる。
「あっ……!」
 ビクビクビクと身体が跳ねた。まだ元気そうな湯尾君がそっと出ていく。もっと欲しい、もっと欲しいと彼に絡みつくのが自分でも分かった。
 え、と湯尾君が虚をつかれたような声を出す。
「抜けるのがいいの?」
 再びゆっくりと身を沈めてきたと思ったらすぐに引き抜かれて、意識が上り詰める。自然と腹部に力が入った。
「うわ」
 湯尾君の切羽詰まった声が落ちてくる。私が締め付けたからか、中にいる彼が小刻みに震えた。
「やばい」
「あ、んあっ……あっ」
 力強い律動が私を揺さぶる。湯尾君は何度も何度も私に欲求をぶつけ、一気に熱を上昇させた。そしてほぼ同時に私たちは果てた。
「なんっで、朝、から……」
 肩で息をしていると肉体が優しく覆いかぶさってくる。温もりがとても心地良い。
「だって俺はまだなのに、のどかが先に寝ちゃうから。どうしたものかと思って」
 耳元で掠れた声が響いて、胸がきゅんと疼く。湯尾君は身体を離すと唇を軽く重ね合わせてきた。見上げた瞳は切なげで、胸の疼きがより一層強いものになる。
「のどか身体辛いでしょ。シャワー浴びる? それかまだ寝てる?」
「浴びる」
「分かった。準備するから待ってて」
 それから10分後、湯尾君は私を抱えて運び、お湯をはった浴槽に入れてくれた。ゆったりと浸かりながら背中を彼に預ける。後ろから抱きしめられる形になって、ちょっぴり胸がくすぐったい。もっと凄いことをしたというのに。今更だと思う。
「お嬢様、湯加減はいかがでしょうか?」
 耳の真後ろで囁かれて身体に甘い痺れが走る。
「ちょうどいい、です」
「なら良かった」
 クスリ、湯尾君は小さく笑った。直後、舌で耳をなぞられてゾクゾクと身体の芯が熱くなる。このままだと熱に溶かされそうで怖くなって上半身を起こして距離を作ったら、まるでドロドロに溶けてしまえと言わんばかりに腕をつかみ引き戻されて深く抱きしめられる。
「湯尾君」
「なに」
「そろそろ身体を洗いたいんだけど」
「それは失礼」
 そう謝ると湯尾くんは浴槽から私を抱き上げ、バスチェアに座らせた。私が手を伸ばすよりも早くシャンプーをとってそのまま私の頭を洗いはじめた。とてもとても丁寧に。
「自分でできるのに」
「今日くらいはベタベタに甘えなよ。頑張ったご褒美」
 後ろにいるから見えなかったけど、きっと優しい顔をしていることだろう。ここは好意に甘えるか。
 さすがと言うべきか、力加減が絶妙で洗うのが上手いと思う。当然のように頭と同じ要領で身体も綺麗にされていき、少し染みたけど時間が経って生まれた中の不快感もさっぱり洗い流してもらった。湯尾君がもたらす何もかもが気持ちよく、浴室を出たあとのぼせてクラクラしたのは言うまでもない。
「予想外だったな」
 タオルを剥いだ布団の上に着替えた私を寝かせて一言、湯尾君が呟く。何が? と訊いても彼は曖昧に笑うだけだった。
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