繋ぎ飼われたその果てに-09

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 湯尾君が告げたことから察するに、春休みまでには確実に本番まで済ませるつもりに違いなかった。春休みまでもう一週間もなかった。そうのんびり進行するわけにもいかない。この私の考察通り、湯尾君は確実に段階を踏んでいった。
 その日は両腕両脚ども初日ほど時間をかけずに済ませ、デコルテには行かず背中を指定された。
「俺むこう向いてるから上に着てるもの全部外して。下着も」
「着けたままじゃ駄目なの」
「はっきり言って邪魔」
「……分かった」
 オネガイしたのは私。湯尾君はそれを叶えてくれているだけ。
 言われた通り、上半身には何も纏わず、敷かれたタオルの上にうつ伏せになった。
「いいよ」
「うつ伏せなった?」
「なった」
「うん、いい子」
 腕と腕を重ねて上に乗せていた頭を撫でられる。脚、腕、とマッサージを受けて過敏になった私にとって一つの刺激にすぎず、自然とじんわり胸が熱くなっていた。ドクンドクンと心音が強くなる。
「腰の上乗っかっていい?」
「どうぞ」
 抵抗感はもちろんある。しかし、それ以上にこれからどうなるんだろうという興味が上回った。もっと気持ちよくなりたい。それが素直な感情。そして、腰に確かな重みが降りる。その部分へ集中的に熱が集まって、じくじくと下半身が疼いた。まだ、背中のマッサージ始まっていもいないのに。キュコ、とお馴染みの音。背中に手のひらであったまったオイルが塗られる。下から上へ、その繰り返し。全体にオイルを染みこませたあと、コリをほぐすように背中に沿った指圧が始まる。力加減が本当に絶妙で、痛気持ちいい。普通にお金取れるレベルじゃないかとさえ思えた。プロの施術なんて受けたことはないけれど。
「将来マッサージ師にでもなるの?」
「なんで?」
 湯尾君の吐いた息が背中にかかり、ゾクゾクする。その快感に浸りきってから、続けた。
「凄く、上手だから。勉強でもしてるのかなって思って」
 答えなんて分かりきっている。それでも少しでも湯尾君のことを知り尽くしたいという欲求が勝った。
「ま、してもらってるって意味ではそうかな。経験に勝る勉強はないよ」
 ふわっと腰が軽くなる。湯尾君は横に移動して左右それぞれに円を描きながら手のひらで刺激与え続けた。脇腹から腋へ滑らせるときにやや内側まで手が伸びたのは気のせいじゃない。これで湯尾君が執拗に腋にこだわる理由がハッキリした。言ってしまえば、腋は胸の真横にあるからだ。さりげなくふくらみを指で押されて息が詰まる。上半身が一糸まとわぬ姿になっているということを嫌でも思い知らされる。改めて思った、凄く恥ずかしい目に合ってる。
 これ以上、耐えられるかな。
「湯尾君」
「なに?」
「うつ伏せで息が、苦しい」
「じゃあ、仰向けになる? タオルあるからそれで隠せるよ」
 カッと顔が火照りあがる。タオルで直接見られることはないだろうけど、形というかサイズは丸分かりになるのは容易に想像がついて居たたまれなくなる。でも、私は拒否できる立場にない。贅沢は言ってられない。
「あっち向いて?」
「はい」
 再度湯尾君が身体を回転させる。わたしはタオルを胸元に巻き付けて、寝転がった。
「いいよ」
 そう言って視界に入った湯尾君は真剣な表情をしていて、余計身体の奥が震えた。恥ずかしそうにしてるのを見て笑ってくれたら気が楽になるのに。こういう時に限って、そんな顔するなんて。女の人という生き物を知り尽くしているみたいだ。それはそれでなんか寂しいような気がしてくる。まだまだ私が見たことのない湯尾君がその表情の奥底に潜んでいるんだ。お姉さんたちは私なんかよりずっとずっと色んな彼の側面を知っている。そのことが私の胸に鋭く突き刺さる。現実から逃げるように目をつぶる。神経が過敏になることなんかどうでもよかった。それより刺激に溺れて、湯尾君のことだけを感じていたい。
 湯尾君は出したばかりのオイルを手で温めてそれを上から私の腹部につ、と垂らした。これまでとは違う刺激に身体が震える。オイルはやや多めに出したらしく、腹部の中心から横に垂れようとしていた。がしかし、すんでのところで大きな手がそれを全体に伸ばしていく。左右対称に「の」の字を描くみたくマッサージされて緊張が高まる。あばら骨の形を確かめるようにバラバラと指先は動いた。そして徐々に手は上へ移動し。
「っん」
 ふくらみを下から持ち上げるように押された。何度も何度も、大きな手のひらが形を整えていく。指先は先端へは行かず、腋に逸れた。でもそれは最初だけで持ち上げる手は徐々に全体を包んでいく。先端に触れるか触れないか焦らされる。タオルの下で先端を軸に指が輪をなぞるにつれ、自分でも固く隆起していくのが感じ取れた。もうじくじくと疼いて止まらない。
「のどか」
「なぁ、に」
 はぁはぁと荒れる息も自制できないくらい私の頭はくらくらしていた。吐息くらいで恥じらうステップはとっくに超えている。
「触るよ」
「は、あっ……!」
 全身に痺れが走る。身体がのたうって、ピンと足が引きつる。揺れはすぐに落ち着いたものの頭がガンガンして、たっぷりと余韻は残った。
「はぁ……はぁ……」
 湯尾君にもろ聞こえたことなんて気にしてられない。喉が渇いた。少し休みたい。降参を訴えてみようかと考えていたときだった。
「やっ」
 再び痺れが駆け巡る。人差し指と親指できゅっとダイレクトに摘ままれて一瞬呼吸が止まった。勘弁してほしい。白旗を上げたかったけれど、湯尾君は容赦なく責めてきた。今度はころころと指先で優しく転がしはじめたんだ。持続的に与えられる快感に頭が真白に染まりかける。
「おね、がいっ。もう、やめ」
 生理現象で溢れた涙で瞳を潤ませながら懇願する。
「一度高まったあとの方がもっと気持ちよくなれるよ」
 そう私に言い聞かせる湯尾君の表情は真剣そのもので、黙らざるを得なくなる。と言っても、嬌声はどうしても止められなかった。そのあとも捻るように押しつぶすように引っ張るように、好き勝手に扱われて最後はタオルの上から擦り上げられて、私の意識は途絶えた。
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